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循環者［サーキュローグ］の姿を可視化する。 私たち、資源問題に関するリサーチ集団ATOWは、そんな標語を掲げています。
活動を開始するにあたって、私たちがまず考えはじめたのは、最も基本的な生活条件である“水”のことでした。より具体的には、「私たちはどんなシステムに支えられて、ほとんど無意識のうちに、1日1人あたり200Lもの生活用水を使うことができているのだろう」ということ。つまり「水供給システム」のありようです。
現代において、水供給システムと聞いて多くの人が最初に思い浮かべるのは、浄水場から管路を通して広範囲に水を届ける大規模集中型の水インフラ、つまり水道（上水道）でしょう。しかし、水道網はすべての都市や地域に普及しているわけではありません。大規模なインフラ整備が進んでいない開発途上国や、人口の少ない山間部や離島では、**大型の水道以外の「小規模・分散型の水供給システム」**が活用されているそうです。地下水をごく小型の浄水場で処理して集落の家々に送る方式や、世帯ごとに貯水タンクや浄水器を設置する方式、コミュニティの中心に水汲み場を設ける方式など、そのあり方は様々です。
私たちはそうした“小さな水インフラ”を、リサーチの出発点に定めました。一見すると遠回りに思われるかもしれません。しかし物事のありようを実感をもって捉えようとするときには、いきなり巨大で複雑な仕組みについて考えるのではなく、小さくてシンプルな仕組みについて考えるのが自然ではないでしょうか。
そこで私たちは、水処理の専門家である東京大学の小熊久美子先生をゲストにお招きし、国内外の小規模・分散型の水供給システムの実態や課題についてお話を伺いました。
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「小規模・分散型の水供給システムは、実態として世界のあちこちで使われています。これも立派な社会基盤、インフラの一種じゃないかと言いたいのです」
そう語る小熊久美子先生は、紫外線LED消毒をはじめとした水処理技術を研究しながら、多くの国や地域で水利用の実態調査を行なってきた研究者です。その経験を通して、小規模・分散型の水供給システムの社会的重要性を強く認識するに至ったそうです。
「SDGs（持続可能な開発目標）には、『誰ひとり取り残さずに安全で安価な水供給を実現する』という目標が含まれています。しかし目標年の2030年はすぐそこに迫っていて、集約型システム（水道）の整備を進めるだけでは明らかに間に合いません。だからこそ、分散型システムを集約型への“つなぎ”の技術と捉えるのではなく、行政もコミットしてその社会的地位を上げるべきだと考えているんです」
中央左が小熊先生 写真：吉屋亮（以下注記なければ同様）
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小熊 久美子（東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 教授） 世界に先駆けてUV-LEDの水処理への応用を研究し、論文・講演を通じて学術界への影響が大きいほか、装置設計や用途提案など企業との共同研究実績も多数。メコン川流域やカナダなど世界各地での調査経験も豊富で、国内外の「小規模・分散型の水供給」の実態に詳しい。東京大学大学院 工学系研究科 博士課程修了。
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小熊先生が紹介する“小さな水インフラ”の実態は多様で、運用のあり方もそれぞれ異なります。
たとえば日本における水道普及率は約98%であり、残り2%の人々は多くの場合、自家用井戸や集落単位の「飲料水供給施設」から自宅へと水を引いています。これらのシステムは自主管理型であり、水道の水質基準を遵守する必要はないため、ろ過や消毒をどの程度まで行うかは使用者の裁量に委ねられる部分が大きいそうです。
水道が普及した都市部で、“小さな水インフラ”が補足的に使われるケースもあります。ベトナムの首都ハノイの中心部では、1家に1〜2台の貯水タンクを屋上に設置し、蛇口には家庭用浄水器を取り付けることが一般的に行われています。以前は地域の水道が未発達でしばしば水が止まり、水道水の品質も低かったため、家庭での貯水や浄水が一種の文化として定着したのだそうです。
一方、水道普及率が低いネパールの首都カトマンズにおいては、街なかに水汲み場（コミュニティ給水施設）が設けられています。ここでは未処理の水は無料、浄水済みの水は有料で配られており、水の運搬は主に女性や子供が担っているそうです。水供給にまつわる経済、ジェンダー、教育などの問題を含んだ光景だといえるでしょう。
「象徴的だと思ったのは、水汲み場でスマートフォンをいじっている女性がいたこと。水道は通っていなくても通信インフラは発達していて、みなさんスマホは持っているんです。これはアフリカなども含め、途上国では典型的に見られるパターンですね」（小熊先生）
ベトナムの首都ハノイにおける屋上の貯水タンク 写真：小熊久美子
ネパールの首都カトマンズにある水汲み場（コミュニティ給水施設） 写真：小熊久美子
小熊先生は、カトマンズ近郊のコカナ村でも水利用の実態調査を行なっています。その際、集落の水汲み場の壁に書かれた渦巻き状のマークの役割を知り、感銘を受けたことがあったそうです。