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循環者[サーキュローグ]の姿を可視化する。 私たち、資源問題に関するリサーチ集団ATOWは、そんな標語を掲げています。
資源循環について議論するとき、その内容を大きく左右するのは共同体のスケールや密集度──つまり人々がどのような範囲に、どのくらいの人口密度で暮らしているのかという、社会像そのものです。
都市や都会、人口密集地、村落、田舎、過疎地など、人の集住の規模を示す言葉にはさまざまなものがあります。しかし、それらの定義は多くの場合曖昧で相対的であり、たとえば人口密度のような単純な指標と対応するものではありません。ある場所が「都会」なのか「田舎」なのかを判断する際には様々な見方があり、既存の言葉では上手く表現できないケースも多いでしょう。
しかし、今回ゲストにお招きした東京大学の小南弘季先生は「1km四方に1000〜2000人」という具体的な基準を用いることで、都市と村落の中間にある絶妙な規模のコミュニティの特性を抽出しようとしています。なぜ、そのスケールと密集度が重要なのか。その研究の先にどんな将来像が見えてくるのか。ATOWのリサーチ・議論の前提を問い直すため、お話を伺いました。
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「2009年、都市人口が世界人口の半数を超えたと国連が発表しました。それは何を意味しているのだろうと疑問に思ったんです。国によって都市の定義は違いますから」
そう語る小南弘季先生は、世界の都市・地域の歴史やまちづくりなどについて研究する気鋭の建築学者です。
「そこで総合地球環境学研究所によるメガシティの研究*を参照すると、彼らは全世界を約1km四方で区切った各グリッドの人口密度を小さい方から大きい方へと順に並べたとき、その累積が世界人口の約半数となる人口密度が2000人であることを発見していました。つまり、1km四方当たり2000人よりも多い地域が“都市”、それより少ない地域が“非都市”だという簡潔な定義が見えてきたんです」
$\tiny ^*村松伸、加藤浩徳、森宏一郎編『メガシティとサステイナビリティ』東京大学出版会、2016年$
写真:吉屋亮(以下注記なければ同様)
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小南 弘季(東京大学 生産技術研究所 助教) 都市史研究。1991年兵庫県伊丹市生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻を修了後、2020年より東京大学生産技術研究所勤務。「江戸東京の神社に関する都市建築史研究」によって博士(工学)を取得。現在は低密度居住地域の社会空間史研究、ブラジル近現代建築研究に従事。共訳書にハリー・F・マルグレイブ『EXPERIENCE:生命科学が変える建築のデザイン』(鹿島出版会、2024)、共著書に『新・私たちのデザイン3 高さのデザイン:空間の豊かさに向き合う』(京都芸術大学 東北芸術工科大学 出版局 藝術学舎、2025)がある。
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その上で小南先生が着目したのは、“非都市”の中でも比較的“都市”に近い人口密度1000〜2000人/km$^2$の地域。都市でも村落でもないこの中間領域に「低密度なまち」という独自の概念を与えたことが、小南先生の現在の研究に繋がりました。
日本においては地方の中心市街地に資本を投下し、その周辺に飛び地状に存在する居住地と繋ぐことで人口減少に対応する「コンパクト・プラス・ネットワーク」という考え方があり、国土交通省の重点的施策にも挙げられています。しかしながら、現在の議論や研究の対象は中心市街地のまちづくりに偏っており、ネットワークの中継点となる低密度の居住地については取り組みが手薄だという印象も、小南先生にはあったそうです。
階層的な「コンパクト+ネットワーク」の考え方 国土交通省ウェブサイトより
「低密度なまち」に当てはまる地域の性格は様々です。江戸時代に大名が武士たちを駐留させるために計画した町もあれば、瀬戸内海などの島嶼部の町村や、戦後に開発されたニュータウンの一部も含まれます。河川などの自然条件や土地の区画形状など、まちの空間構造も多種多様です。複数の集落の集合、戦後の居住区域の拡大、そして人口減少による空地の増加といった歴史的経緯により、同じくらいの人口密度でもそれぞれ全く異なる風景が形成されているのが、「低密度なまち」の面白い点だそうです。
「1km四方という範囲は車で5分程度の広さで、小学校区とおおむね対応するのも重要なポイントです。一方で、この規模のコミュニティには高校や働ける場所や文化・娯楽施設がないケースが多く、それが人口減少の要因になっています。しかし、独特の風景を楽しめる低密度なまちに住み、少し時間をかけて中心市街地に通うという生き方があってもいいと思うんです」