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循環者[サーキュローグ]の姿を可視化する。  私たち、資源問題に関するリサーチ集団ATOWは、そんな標語を掲げています。

9月、私たちは箱根仙石原にある、とある家を見学する機会に恵まれました。建築家・吉村順三によって1960年代後半に建てられたこの住宅の床面積は約10.5坪(34㎡)。最小限住宅の系譜としては、前回の休暇小屋よりは大きく、次回紹介予定の住宅群よりは小さなサイズです。当時の価値で、建設費100万円を目安に設計されたといわれています。

この住宅が辿ってきた歴史や、現在の保存活動については、管理人の辻林舞衣子さんによる発信や、その他メディアの記事で知ることができます。そこで、この記事では建築を専門とするATOWメンバーが抱いた空間への印象と分析を、コラムとして紹介します。

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椅子座と床座が共存する空間

吉村はこの住宅において、ローコストでおさめることを最優先の目標に設定し、設計を楽しんでいたようにみえる。

コストを抑えるためには、歩留まり(ぶどまり。材料を寸法や規格に合わせて無駄なく使えるかどうかということ)を良くすればいい。日本の流通材は90cm✕180cmという畳の寸法を基準に製作されているので、柱間の寸法を90cm程度とすれば、端材の発生を最小限にできる。つまり、ローコスト住宅には最適な寸法体系なのである。

吉村順三《仙石原の家》外観。ボイド管を用いて打設されたコンクリート杭で持ち上げられた木造の小屋

吉村順三《仙石原の家》外観。ボイド管を用いて打設されたコンクリート杭で持ち上げられた木造の小屋

この原則が高さ方向でも遵守されているのが興味深い。90cmの半分の45cmを180cmに加えた225cmという寸法が、床から桁までの高さになっている。

また45cmの半分の約23cmで、洋間と和室の床の高さに変化を与え、椅子座と床座の視線が揃うように設計されている(下の断面図)。この操作は部材の合理性からは説明できない、生活のための配慮といえるだろう。

その結果として、洋間の窓台の高さは(23cm+45cm+窓台の厚みで)73cmほどになり、一般的な机の高さと揃うことになる。一方、和室の窓台の高さは50cm程度なので、今度は窓の上部の垂れ壁の高さと同じ寸法になる(下の断面図の左側)。

このように部材の合理的な使用と生活のための配慮を行き来しながら、全体がデザインされているさまが、寸法に現れているのである。

《仙石原の家》簡易断面図・平面図。床の段差。開口部の位置。壁材の割付に注目してほしい

《仙石原の家》簡易断面図・平面図。床の段差。開口部の位置。壁材の割付に注目してほしい

“現し”の極限

「現れている」といえば、この家の設計では巾木(はばき。壁と床の隙間を隠す部材)や廻縁(まわりぶち。壁と天井の隙間を隠す部材)といった副部材が省略されているという。しかし下のような写真では、一見すると壁と床の間に巾木が取り付けられているようにも見える。これは、どういうことだろうか?

《仙石原の家》床と壁のおさまり

《仙石原の家》床と壁のおさまり